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京都地方裁判所 平成9年(ワ)2353号 判決

京都府久世郡久御山町中島池ノ上四三番地の二

原告

株式会社エム・イー開発技研

右代表者代表取締役

草野憲雄

右訴訟代理人弁護士

中島俊則

右補佐人弁理士

矢野正行

東京都八王子市石川町二九五一番地四

被告

株式会社ニレコ

右代表者代表取締役

大田吉彦

右訴訟代理人弁護士

新井弘治

右補佐人弁理士

坂倉知己

主文

一  被告は、別紙物件目録一、二記載のガイドロール機構を製造し、販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、二一七万〇六七七円及びこれに対する平成九年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  第一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

1  主文第一項同旨

2  被告は、原告に対し、八五三三万円及びこれに対する平成九年九月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  事実関係(いずれも争いがないか、弁論の全趣旨によって認めることができる。)

1  原告の権利

(一) 原告は、以下の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。

考案の名称 搬送ローラのガイド装置

出願日 昭和六一年九月二五日(実願昭六一―一四七一五九号)

出願公開日 昭和六三年四月九日(実開昭六三―五二八五五号)

出願公告日 平成四年七月六日(実公平四―〇二七八九一号)

登録日 平成五年四月一二日

登録番号 一九六〇三二七号

実用新案登録請求の範囲

「搬送ローラをその両端部で各個別のローラ支持体により軸支し、このローラ支持体の移動により搬送方向を変える搬送ローラのガイド装置において、搬送方向の後方側端部を支点として搬送面に水平な面に対して回転自在に支持されるとともに、後方側端部より外側に位置する前方側端部にローラ支持体を軸支する連結部材と、搬送ローラの両端部に位置するローラ支持体を連結する連結棒と、前記連結棒に搬送方向に垂直な方向に力を作用させて搬送ローラの二つの連結部材に同方向の回転力を供給する連結部材回転手段と、を備えてなる搬送ローラのガイド装置。」

(別添明細書《甲二 以下「本件明細書」という。》記載のとおり。)

(二) 本件考案の構成要件は、以下のとおり分説するのが相当である。

A 搬送ローラをその両端部で各個別のローラ支持体により軸支し、このローラ支持体の移動により搬送方向を変える搬送ローラのガイド装置において、

B 搬送方向の後方側端部を支点として搬送面に水平な面に対して回転自在に支持されるとともに、後方側端部より外側に位置する前方側端部にローラ支持体を軸支する連結部材と、

C 搬送ローラの両端部に位置するローラ支持体を連結する連結棒と、

D 前記連結棒に搬送方向に垂直な方向に力を作用させて搬送ローラの二つの連結部材に同方向の回転力を供給する連結部材回転手段と、

E を備えてなる搬送ローラのガイド装置。

(三) 本件考案は、以下の効果を奏する。

(ア) この考案によれば、搬送ローラを連結部材の回転動作によって移動し、搬送物の搬送位置を変化させる。このとき、連結部材の回転動作の進捗状態に応じて搬送ローラの傾斜角の変化量を変えることができる。したがって、搬送位置の誤差が軽微な状態では搬送ローラを搬送方向に垂直な方向に直線的に移動させ、誤差が大きくなったとき搬送ローラを傾斜させて搬送物を大きく移動させることができる。このため、搬送物の搬送位置の誤差が小さい状態では搬送物を微妙に移動させることができ、しかもその移動にハンチングを伴うことがない。一方、搬送物の搬送位置の誤差が大きくなると搬送物を大きく移動し、修正を素早く行うことができる(本件明細書7欄21行~8欄6行)。

(イ) 両連結部材に回転力を伝達する連結部材回転手段は両連結部材の間すなわち、搬送ローラの幅によって規定される搬送路の範囲に設けられるため、装置が搬送ローラの外側に大きく張り出すことがなく、装置の小型化を実現することができる。

2  被告の行為

被告は、平成四年ころから、別紙物件目録一、二記載のガイドロール機構(以下、別紙物件目録一記載のガイドロール機構をイ号物件、同目録二記載のガイドロール機構をロ号物件といい、併せて「被告物件」という。)を製造・販売している。

3  被告物件の構成

a 平行に配置された二本のローラをその両端部でローラ支持体により軸回りに回転可能に支持し、このローラ支持体の移動によりウェブの搬送方向を変え、

b 二つの連結部材が、一方の端部を支点として二本のローラの両回転軸によって作られる平面に平行な面に対して回転自在に支持されるとともに、一方の端部より外側に位置する他方の端部にローラ支持体を回転可能に支持し、

c 連結棒が二本のローラの両端部に位置するローラ支持体を連結し、

d 二つの連結部材を同方向に回転させるために、連結棒に対して二本のローラ間のウェブ走行方向に垂直に力を作用させる駆動源としての電動アクチュエータを有する、

e ガイドロール機構である。

二  原告の請求

原告は、被告物件は本件考案の技術的範囲に属するとして、実用新案法二七条に基づき、被告物件の製造販売の停止ないし予防を求めるとともに、民法七〇九条、実用新案法二九条に基づき、本件実用新案権侵害による損害賠償として八五三三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年九月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  争点

1  被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか。

2  被告は、現在、被告物件を製造販売しているか。将来製造販売するおそれがあるか。

3  被告が損害賠償責任を負う場合、原告に賠償すべき損害額。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか。)について

【原告の主張】

1 本件考案の構成要件(以下「構成要件AないしE」という。)と被告物件の構成(以下「構成aないしe」という。)は、以下のとおり同一であり、本件考案と被告物件の作用効果も同一である。

(一)構成要件A、CないしEとこれに対応する構成a、cないしeはそれぞれ同じである。なお、被告物件の構成dにおける電動アクチュエータ(18)は、連結棒(17)を介して二つの連結部材(14)、(14)に同方向の回転力を供給する駆動源であるから、構成dは構成要件Dを充足している。

(二) 構成要件Bと構成bの同一性について

本件考案の「搬送方向」及び「搬送面」について検討すると、ローラは、ウェブをローラの一方の側から他方の側へローラ表面の摩擦力をもって搬送させることを目的とするものである。この場合、ローラの外径は、ウェブに対して、摩擦力及び張力を付与するために適宜定められるものであって搬送方向と無関係である。したがって、平行に固定された二本のローラによってウェブが搬送されようとするときは、第一のローラの回転軸と第二のローラの回転軸の両回転軸に直交する方向が搬送方向であり、また、両回転軸で作られる平面が搬送面である。よって、被告物件の構成bにいう「二本のローラの両回転軸によって作られる平面」は本件考案の構成要件Bにいう「搬送面」にほかならず、構成bは、構成要件Bに一致する。

被告は、本件考案における「搬送面」とは、第一ローラに搬入されるウェブの面又は第二ローラから搬出されるウェブの面である旨主張するが、波打ったりしわが生じたりする薄いウェブの面をもって「搬送面」を定義しようとすることは無理がある。このことは、被告が「搬送面」を定義するに際して、各ローラに沿って移動するときの曲面は除外する旨主張していることからも明らかである。

また、被告は、ローラに対するウェブの掛け方の相違に基づく連結部材の表現の相違から、構成要件Bと構成bが異なると主張するが、本件考案はウェブの掛け方について限定されないから、構成bは構成要件Bと同一である。

2 本件考案と被告物件の構造の同一性について

(一) 従来の搬送ローラのガイド装置(以下「従来技術」という。)では、搬送ローラ支持体が直線的に移動するため、ローラの中心位置の軌跡は円弧軌跡を描き、搬送位置の誤差が小さい状態の修正作用において、ウェブの搬送方向に対する垂直移動(横への直線的な変化)だけでなく傾斜移動が始まってしまう。その結果、搬送位置の誤差が小さい状態でウェブの移動量が大きくなりハンチングが生じるという欠点を有していた。また、従来技術においては、搬送位置の誤差が大きい状態の時、搬送ローラの傾斜角の変化によって位置ずれを大きく修正させるのが望ましいのに、搬送ローラの傾斜角の変化は徐々に小さくなり、そのためウェブの移動量が小さくなって有効な修正が得られないという欠点があつた。

本件考案は、ハの字型リンク機構とでもいうべき構造を有することによって、従来技術の右のような欠点を克服したものである。本件考案において、搬送ローラの中心位置の軌跡は、楕円を描く。したがって、搬送位置の誤差が小さい状態の時、楕円軌跡の中央部分は限りなく直線に近いため、ローラの垂直移動(横への直線的な変化)によりウェブを必要量だけ移動させ修正を行うことができる。これに対し、搬送位置の誤差が大きい状態のときは、楕円軌跡の端部分の傾斜は急であるためローラの傾斜によりウェブの位置ずれを大きく修正することができる。被告物件も、ハの字型リンク機構を用いて、本件考案と同様の構造により従来技術の欠点を克服している。

(二) 被告は、本件考案と被告物件では、制御方式に差異があるから、被告物件は本件考案の技術的範囲に属しない旨主張する。しかし、本件考案は、所定の連結部材と、連結棒と、連結部材回転手段とを備えた搬送ローラのガイド装置という「物」の考案であり、搬送方法とか制御方法といった「方法」の考案ではない(そもそも方法は実用新案法の保護対象ではない。実用新案法一条、三条)。したがって、実用新案登録請求の範囲に記載された構成要件を充足する装置は、すべて本件考案の技術的範囲に属するのであり、同じ構成をもつ装置が、制御方式のいかんによって、考案の技術的範囲に属したり属しなかったりすることはあり得ない。

また、本件明細書記載の実施例においても、ローラの角度変更量が小さければウェブの横方向への移動量は小さいし、逆に被告物件もローラの角度変更量を大きくすればするほどウェブが第一ローラ上で横に移動することは明らかであって、制御方式においても両者間に本質的に差異があるわけではない。

【被告の主張】

1 構成要件Bと構成bの対比について

(一) 構成要件Bにおける「搬送面」について

右搬送面は本件考案において実際にウェブが搬送される面(各ローラに沿って移動するときの曲面は除外する。)をいうと解すべきである。これは、第一ローラに搬入されるウェブの面、第一ローラと第二ローラとの間のウェブの面及び第二ローラから搬出されるウェブの面の三種類以外には存在しない。

原告は、右搬送面の意義について、第一のローラの回転軸と第二のローラの回転軸の両回転軸で作られる平面が搬送面である旨主張するが、実際にウェブが搬送される面と異なった仮想の面を搬送面と定義することには無理がある。なお、原告は、搬送中にウェブが波打つことがある旨指摘するが、搬送中に生ずるウェブの微動は、本件考案の課題には関係のない事項であり、ウェブが搬送される面以外の面を搬送面と定義すべき根拠にはならない。

そして、本件考案は、ウェブの搬入、搬出に関しては、本件明細書第7図のような方式によることを前提としている。これによれば、ウェブは、第一ローラの上部から第二ローラの下部に、もしくは第一ローラの下部から第二ローラの上部に、斜めに掛け渡されるかたちで搬送される。この場合、第一ローラと第二ローラの間におけるウェブの面を「搬送面」であるとすると、「連結部材」の回転面が「搬送面」に水平であるとする本件考案の構成要件と矛盾することになるから、右をもって搬送面とすることはできない。したがって、本件考案における搬送面とは、第一ローラに搬入されるウェブの面又は第二ローラから搬出されるウェブの面であるということになる。

(二) 構成要件Bと構成bにおける搬送面と連結部材の構成の相違

本件考案においては、別紙図面図1記載のとおり、連結部材(赤色部分)は搬送面(青色部分)に水平な面に回転自在に支持されている。これに対し、被告物件においては、別紙図面図2記載のとおり、連結部材(赤色部分)は搬送面(青色部分)に垂直な面に対して回転自在に支持されている。すなわち、構成bは、「…搬送面に垂直な面に対して回転自在に支持される…連結部材」と表現されるべきものであり、構成要件Bの「…搬送面に水平な面に対して回転自在に支持される…連結部材」を充足しない。

原告は、被告がローラに対するウェブの掛け方の相違に基づく連結部材の表現の相違を主張するのみである旨主張する。しかし、本件考案は、ガイド装置内の一対のローラ間におけるウェブの掛け方から生ずるウェブの搬送面を基準とする連結部材の回転面の配置構造を構成要件の一つとしているものであるから、その配置構造を異にする被告物件を本件考案と同一構成であるとすることはできない。

2 本件考案と被告物件の右構造上の相違から生ずる作用効果の差異について

(一) 本件考案の制御方式は、別紙図面図3記載のとおりであって、ウェブが第一ローラに搬入される搬送面と一対の搬送ローラの角度変更面とが平行であるから、搬送ローラの角度が変わると、搬入されたウェブが、まず、第一ローラ上でそれと直角になるような方向に横に移動しつつ搬送される。その横方向の移動量は時間とともに増加し続け、それに伴って第二ローラ上でも横方向の移動が継続されて、第二ローラから搬出される。横方向の移動量は時間的な要素を含む積分値となるから、制御方式は積分制御である。

これに対し、被告物件の制御方式は、別紙図面図4記載のとおりであって、ウェブが第一ローラに搬入される搬送面と一対の搬送ローラの角度変更面とは垂直であるから、搬送ローラの角度が変わっても、搬入されるウェブの第一ローラ上での位置は変わらない。そして、ウェブは、搬送ローラの角度変化に対応する量だけ移動して第二ローラから搬出される。したがって、制御方式は比例制御である。

比例制御方式を用いている被告物件は、積分制御方式を採っている本件考案に比べ、ハンチングも生ぜず、確実性・応答性が高く、制御系の構成も簡単であるなどの利点がある。

(二) 本件考案と被告物件の右制御特性上の差異は、両者の前記構造上の相違に基づく作用効果上の相違である。

(三) 原告は、逆ハの字型リンク機構を本件考案の重要な構成要件であると主張する。

しかし、右機構には新規性がない。すなわち、被告は、出願日を昭和四六年一一月九日(特願昭四六―八八六八〇号)、出願公開日を昭和四八年七月二六日(特開昭四八―五三一八三号)、出願公告日を昭和五一年一〇月八日(特公昭五一―三六四一五号)とする登録番号八六二九〇四号の「テレビジョンを利用した耳端位置制御装置」と称する特許権を保有していた(以下「別件特許権」といい、その発明を「別件特許発明」という。)ところ、右特許出願公告にかかる明細書(乙六 以下「別件明細書」という。)第1図には、本件考案と同じ目的を有するウエブの制御装置において、制御ローラの角度調整機構として、本件考案にいう「連結部材」と同じ逆ハの字型リンク機構が図示されているのである。したがって、この種の制御装置の制御ローラの角度調整機構として、そのような逆ハの字型リンク機構を用いることは、本件考案の出願前から公知であるから、本件考案における逆ハの字型リンク機構自体に新規性はなく、その技術的範囲は制限的に解すべきであり、ウエブの搬送面と制御ローラの角度調整面等の方向関係等が主要な構成要件となるものである。

二  争点2(被告は、現在、被告物件を製造販売しているか。将来製造販売するおそれがあるか。)について

【原告の主張】

被告は、平成八年三月末日をもって、差止の対象となっている被告物件の製造を中止し、改良品である連結棒のない製品を製造している旨主張するが、原告代理人らが平成一一年七月二二日被告会社に出向いて、平成八年七月五日付製作指図書を閲覧したところ、「特許対策のため」として図番の修正が行われていた。すなわち、被告は、被告物件が本件実用新案権を侵害することを認識し、図番修正を行ったものである。

なお、右製作指図書には出図図面に日付がなく、標準外仕様品については、図面が修正されている点の確認ができなかった。また、右製作指図書では、被告物件の最終受注日は平成七年一〇月七日となっており、それ以降平成八年七月ころまで、被告物件についての受注が全くないことになるが、それ以前は最長でも二、三か月内に受注がされていたことからすると、右記載は不自然である。

以上のことからすれば、被告は、平成八年四月一日以降も被告物件を製造販売している疑いがあり、将来も製造販売するおそれがある。

【被告の主張】

1 被告は、被告物件の製造販売を平成八年三月末日をもって中止している。

2 原告は、平成八年七月五日付製作指図書に「特許対策のため」との記載があるとしてこれを問題とするところ、右は「図面訂正通知票」の訂正理由欄に「特許対策」と記載されていたというのが正確なところであるが、被告が右図面訂正を行ったのは、被告物件が本件考案の技術的範囲に属すると考えたからではなく、原告との無用の論争を避けること、不必要な連結棒を省くことにより、重量の軽減と材料コストの低減を図ることが目的であった。

3 原告は、右製作指図書の出図図面に日付がなかったことをもって、平成七年一〇月七日以降平成八年七月ころまで、被告物件についての受注がなかったことになる右指図書の最終受注日の記載は不自然である旨主張するが、これは標準仕様であって、製作図面は製作業者に保管されている標準図面により行われたため、図面番号の指示のみがあり、図面提出日の日付はなかったものである。

三  争点3(被告が損害賠償責任を負う場合、原告に賠償すべき損害額。)について

【原告の主張】

1 実用新案法二九条三項に基づく主張(主位的主張)

被告の平成八年度の決算によれば、帯状物件制御装置の売上高は四七億四一〇〇万円である。そのうち、被告物件の占める割合は二割は下らないと考えられるから、被告物件の売上高は年間九億四八二〇万円と推定される。

原告は、被告の行為により、本件考案の実施について通常受けるべき金銭の額に相当する損害を被ったところ、相当実施料は売上高の三パーセントである。

本訴では、そのうち、右年間売上高の三年分に一〇〇分の三を乗じて得た八五三三万円を請求する。

2 実用新案法二九条二項に基づく主張(予備的主張)

被告は、被告物件の売上高は五六〇七万〇七二五円、また、同種の構造を有する「BT九五七三 0―JA」及びその標準仕様品「KL一六二八 0―JA」の売上高は三九七万四〇〇〇円である旨主張する。右の販売額については原告は多大な疑問をもっているが、これを前提に、実用新案法二九条二項に基づき、原告が被ったと推定される被告の利益を算出すると(ここでいう利益はいわゆる限界利益と解する。すなわち、純利益説を採ると、権利侵害をしても損害額が低額に抑えられ、権利救済の実効が上がらないのであって、有体物に比べ侵害が容易で誘惑も強い特許権侵害についての賠償については、侵害抑止の観点からある程度の事実上の制裁機能を加味しても背理ではない。なお、利益率は被告が明らかにしないので原告のもの《四三・六パーセント》による。)、二六一七万九五〇〇円(《56070725+3974000》×0.436=26179500)となる。

なお、被告は、被告において製品を受注した場合にその都度作成される「製作指図書」に基づき、各受注価額から原価の確定しているガイドロール以外の部品(センサー等)の価額を控除するなどすれば右総売上高に占めるガイドロール機構の割合は、六一パーセントとなる旨主張するが、ガイドロールとセンサー等電気製品部分は一体のものであるから、これらの部分を控除するのは相当でない。

また、被告は、原告と被告の販売範囲、実施能力の差から、原告が被告物件が販売された全量を販売することはできなかった旨主張するが、本件考案の実施品が被告物件のものまね品という噂がたったため、これを思うように売れなかつたのが実情であって、原告に実施の能力がなかったわけではない。

【被告の主張】

1 本訴において対象とされている平成五年四月一日から平成八年三月末日までの被告物件を含む被告製品の受注は四六であり、その売上高は七〇六七万四七二五円、売上原価は五八五一万一一四一円、粗利益は一二一六万三五八四円であり、粗利益率は一七・二一パーセントとなる(乙三)。

次に、右総売上高に占めるガイドロール機構の割合は、六一パーセントである(乙二)。右の数値は、被告において製品を受注した場合にその都度作成される「製作指図書」に基づき、各受注価額から原価の確定しているガイドロール以外の部品(センサー等)の価額を控除する方法により(値引きがある場合はこれも考慮して)推定的にガイドロールの単価を計算し算出したものである。そうすると、ガイドロール機構のみ、すなわち被告物件のみの売上高は四三一一万一五八二円ということになる。

右被告物件の粗利益率が、前記全体の粗利益率に等しいとすると、被告物件の粗利益は七四一万九五〇三円となる(四三一一万一五八二円×一七・二一パーセント)。

したがって、被告物件の製造原価は合計三五六九万二〇七九円ということになる。

他方、同期間の被告の売上合計は二二一億三一九六万六〇〇〇円であるのに対し、販売費及び一般管理費の合計は五五億四一三二万四〇〇〇円であって、約二五パーセントである(乙五の1ないし3)。

これを、被告物件の売上高に乗ずると、被告物件を売上げるための販売費及び一般管理費は一〇七七万七八九五円となり、被告物件の前記売上高から前記製造原価、一般管理費を差し引くと、純利益はマイナス三三五万八三九二円となる。

被告においては、ガイドローラは売れば売るほど利益が減少するが、諸々のしがらみ上、製造販売を中止するわけにもいかずこれを継続しているのである。

2 被告は、全国展開をしている会社であって、被告物件の販売範囲も全国に及んでいる。これに対し、原告の販売範囲は関西に限定され、被告と競合することはない。しかも、原告の製造販売の実施能力を考慮すると、被告物件が販売された全量を販売することはできない。また、平成五年四月一日から平成八年三月末日までの被告物件を含む被告製品の受注数は四六であるところ、同期間内において、被告が製造販売したガイドロール機構を含んだ製品の受注数の総数は七九六であり、右被告製品の割合は五・七八パーセントにすぎないのであって、被告の販売範囲(シェア)を獲得するのに、被告物件は殆ど影響がなかったものである。

以上のことからすれば、本件では、被告の得た利益をもって(特にその利益率を原告の利益率によって)、原告の受けた損害であると推定すべきではない特別の事情があるというべきである。

第四  争点に対する判断

一  争点1(被告物件は、本件考案の技術的範囲に属するか。)について

1  被告物件が構成要件Bを除く本件考案の構成要件を充足することは当事者間に実質的に争いがない。

2  構成要件Bと構成bの同一性について

被告は、本件考案においては、連結部材が搬送面に水平な面に対して回転自在に支持されているという構成をとっているところ、被告物件はこれと異なると主張するので、検討する。

(一) 本件考案における「搬送面」の意義

(1) 実用新案登録請求の範囲には搬送される対象物を表現する事項が記載されていないので、構成要件Bにいう搬送面は、両搬送ローラによって規定される搬送面を意味するものと解される。ここで想定しうる搬送面としては、搬送する側である搬送ローラにより構成される面か(原告の主張)、当該搬送ローラにより搬送される対象物すなわちウェブにより構成される面か(被告の主張)のいずれかということになる。そして、この点については、実用新案登録請求の範囲に記載された文言からは一義的に定めることができないから、本件明細書の記載を参酌し、構成要件Bにおいて連結部材が「搬送方向の後方側端部を支点として搬送面に水平な面に対して回転自在に支持される」ことの技術的意味、それにより達成しようとする効果を検討することを要することになる。

(2) 本件明細書で、実用新案登録請求の範囲以外に搬送面について直接記載されているのは、「問題点を解決する手段」の項に実用新案登録請求の範囲とほぼ同様の記載があるほか(本件明細書4欄14行~27行)、「作用」の項に、「この考案においては、搬送ローラの両端部を軸支するローラ支持体は連結部材の搬送方向の前方側端部に軸支される。この連結部材の搬送方向の後方側端部は搬送面に水平な面に対し回転自在にされている。また、両端部のローラ支持体は連結棒により連結されている。したがって、両端部の連結部材とその間の連結棒とにより、四つの回転対偶をもつ平面三節のリンク機構が構成される。このリンク機構において連結棒において連絡される二本の連結部材の前方側端部の間隔は、その後方側端部の間隔より広い。このようにして搬送ローラ両端部に設けられた二本の連結部材のそれぞれに同方向の回転力が連結部材回転手段により連絡棒を介して伝達される。連結部材の前方側端部は後方側端部よりも外側に位置しているため、連結部材回転手段により回転力が伝達されると、左右の連結部材の前方側端部の回転に位相差が生じる。すなわち、回転方向側の連結部材の前方側端部は回転とともに搬送方向の移動量が徐々に増加していく。このとき他方の連結部材の前方側端部は搬送方向に垂直な方向の移動が支配的である。以上のことから、連結部材の回転初期には搬送ローラは主に搬送方向に垂直な方向に移動し、連結部材の回転に伴って搬送方向に対する傾斜量を増していく。」(同4欄29行~5欄9行)とされている。ここでは、両端部の連結部材とその間の連絡棒とにより、四つの回転対偶をもつ平面三節のリンク機構を形成するために、連結部材の搬送方向の後方側端部は搬送面に水平な面に対し回転自在にされる必要があることがわかる。

一方、実施例の説明を参酌すると、「二本の搬送ローラ1、2は両端部においてローラ支持体3により軸支されている。このローラ支持体3は、連結部材4の前方側端部4aに軸支されており、連結部材4はその後方側端部4bにおいてピン5により軸支される。」(本件明細書5欄13行~17行)、「モータ31が回転すると回転ネジ33も回転し、移動体43が第2図Aに示す矢印LまたはM方向の搬送方向に垂直な方向に移動する。この搬送方向に垂直な方向の移動はレール38と移動子44との接触により連結棒7を介してローラ支持体3に伝達される。」(同6欄19行~24行)、「このときの連結棒7の単位時間毎の状態の変化を表すと第5図のようになる。同図に示すように、搬送ローラ1、2と平行な連絡棒7は移動体43とともに等速度で矢印L方向に移動する。」(同欄33行~36行)と記載されており、いずれも、リンク機構を構成する連結部材4や連絡棒7の位置は搬送ローラ1、2との位置関係によって特定されるが(特に本件明細書6欄33行~36行の記載は、連結棒7と搬送ローラ1、2が平行関係にあることを示しており、リンク機構の位置関係の決定について搬送ローラが重要な意味を有することが明らかである。)、ウェブについては何らの記載もない。本件考案の実施例の図面である本件明細書第1図ないし第5図においても、ウェブは全く記載されておらず、一方、同第1図によれば、連結部材、連結棒、さらに二本の搬送ローラの両回転軸を結ぶ面が平行な関係にあることが認められる。

以上によれば、本件考案の構成要件Bにいう搬送面は、搬送する側である搬送ローラによって規定される面、具体的には、二本の搬送ローラの最上面に共に接する平面及び両回転軸を結ぶ平面をいうものと解するのが相当である。この種搬送ローラでは両ローラの径が等しいから(右第1図のほか、被告の一九九四年二月版、一九九六年八月版のカタログ 甲三、八)、このように解することによって、右各平面は互いに平行であり、これら搬送面と平行な面である連結部材の回転面も実施例の構成と明確に整合することとなる。

(3) これに対し、被告は、本件考案は、ウェブの搬入、搬出に関しては、本件明細書第7図のような方式、すなわちウェブが第一ローラの上部から第二ローラの下部に、もしくは第一ローラの下部から第二ローラの上部に、斜めに掛け渡されるかたちで搬送される方式を前提としているところ、第一ローラと第二ローラの間におけるウェブの面を搬送面であるとすると、「連結部材」の回転面が搬送面に水平であるとする本件考案の構成要件と矛盾することになるから、本件考案における搬送面とは、第一ローラに搬入されるウェブの面又は第二ローラから搬出されるウェブの面である旨主張する。

しかし、本作考案の実施例の説明にも図面にも、ウェブの記載が全くないことは前記のとおりであり、被告引用にかかる本件明細書第7図にしたところで、第一ローラに搬入されるウェブの面又は第二ローラから搬出されるウェブの面がいかなる角度で搬入され、ないしは搬出されているかについて何の記載もない。そして、被告の主張するようなウェブの搬送面は、上流側及び下流側の両者の搬送位置が特定されねば特定できないところ、第一ローラ及び第二ローラと対となって右搬送面を特定すべき配置構造は明細書中に何らの記載もない。被告主張のようなウェブが第一ローラの上部から第二ローラの下部に、もしくは第一ローラの下部から第二ローラの上部に、斜めに掛け渡されるかたちで搬送される方式において、ウェブパスラインが一定したものであると限らないことは、前記甲三、八の各一〇頁において、その種の方式において「ガイドロールとウェブのラップ角は、基本的には九〇度ですが、ロールとウェブの間でスリップ等悪い現象がなければ若干変ってもかまいません。」としてプラスマイナス五度の誤差を許容していることからも明らかであって、このような不安定で変動しうる存在である被搬送物に搬送面の特定の基準を求めることは合理性を欠くというべきである。

したがって、被告の右主張は理由がない。

(二) 以上のとおりであって、右検討した搬送面の意義によれば、搬送面との関係における連結部材の位置関係は、構成要件Bと構成bにおいて同一であるといえるから、構成bは構成要件Bを充足するものと解される。

3  以上のとおり、構成aないしeは、構成要件AないしEをいずれも充足するから、被告物件は本件考案の技術的範囲に属するものというべきである。しかるに、被告は、被告物件は、本件考案と構造上の相違に基づき異なった作用効果を有すると主張するので、検討する。

(一) 本件考案が解決しようとする問題点は、「搬送物の搬送方向に垂直な方向の位置を搬送ローラの移動により変化させる場合、搬送ローラを搬送方向に垂直に移動させる方法と、搬送方向に対して傾斜させる方法がある。搬送方向に垂直に移動させる場合には、その移動量だけ搬送物の位置を変化させることができる。一方、搬送ローラを傾斜させると搬送物の位置は傾斜している間において継続して累積的に変化する。以上のことから基準位置からの誤差が小さい範囲では搬送ローラを搬送方向に垂直な方向に移動して搬送物を必要量だけ移動し、搬送物の位置に大きな誤差を生じた場合には搬送ローラを傾斜させて位置を連続的に変化させることが望ましい。ところが、上記従来の搬送ローラのガイド装置ではローラ支持体が直線的に移動するため、ローラの中心位置の軌跡は第8図に示すようになる。したがって、移動体64を搬送ローラの水平状態81から矢印B方向に移動させた場合には搬送ローラの傾斜量は徐々に小さくなり、反対に移動体64を移動させる方向によって搬送ローラに与えられる傾斜角が異なり、特に搬送物の搬送位置を矢印Ε方向に移動させる場合には、単位時間当たりの搬送ローラの傾斜角の変化は徐々に小さくなる。このため、搬送位置の誤差が小さい状態で搬送物の移動量が大きくなり、反対に誤差の大きい状態で移動量が小さくなってしまうため、誤差の小さい状態で移動方向が交互に反転するハンチングが生じたり、誤差の大きい状態で適正な(「適正は」とあるは誤記と認める。)修正効果が得られない問題があった。また、第6図に示すように搬送ローラの両側に回転ネジ及びガイドの一部が突出し、搬送物の幅に比べて装置が大型化する欠点があった。この考案の目的は、搬送位置の誤差が小さい状態において搬送物の移動量を小さくし、誤差の大きい状態において移動量を大きくすることができ、位置修正の応答性を向上するとともにハンチングを防止し、さらに装置を小型化できる搬送ローラのガイド装置を提供することにある。」(本件明細書3欄15行から4欄12行)。

そして、本件考案は、構成要件AないしEの構成を採用することにより、「…すなわち、回転方向側の連結部材の前方側端部は回転とともに搬送方向の移動量が徐々に増加していく。このとき他方の連結部材の前方側端部は搬送方向に垂直な方向の移動が支配的である。以上のことから、連結部材の回転初期には搬送ローラは主に搬送方向に垂直な方向に移動し、連結部材の回転に伴って搬送方向に対する傾斜量を増していく。」との効果を有し(本件明細書5欄2行~9行)、「…したがって、搬送位置の誤差が軽微な状態では搬送ローラを搬送方向に垂直な方向に直線的に移動させ、誤差が大きくなったとき搬送ローラを傾斜させて搬送物を大きく移動させることができる。このため、搬送物の搬送位置の誤差が小さい状態では搬送物を微妙に移動させることができ、しかもその移動にハンチングを伴うことがない。一方、搬送物の搬送位置の誤差が大きくなると搬送物を大きく移動し、修正を素早く行うことができる。さらに、…装置が搬送ローラの外側に大きく張り出すことがなく、装置の小型化を実現することができる。」との効果を奏する(同7欄25行~8欄12行)。

すなわち、本件考案は、原告のいういわゆる逆ハの字型リンク機構(連結部材の前方側端部が後方側端部よりも外側に位置している。)を採ることにより、連結部材回転手段により回転力が伝達されると、左右の連結部材の前方側端部の回転に位相差が生じ、連結部材の回転初期には搬送ローラが主に搬送方向に垂直な方向に移動し、連結部材の回転に伴って搬送方向に対する傾斜量を増していく(このことは、リンク機構において各点の速度は瞬間中心からの距離に比例することから裏付けられる。すなわち、逆ハの字型リンク機構において、右側に傾いた状態では、連結棒前方右端の点から瞬間中心までの距離が長く、左端の点から瞬間中心までの距離が短いから、右端の点の移動速度が大きくなり、傾斜量は大きくなっていく。)という作用により、搬送位置の誤差が小さい状態において搬送物の移動量を小さくし、誤差の大きい状態において搬送物の移動量を大きくするという目的を達成しているのである。

そうすると、被告物件も、本件考案の構成要件をすべて充足する構成を採ることにより、同一の作用・効果を有しているといえるのであって、本件考案と技術的に異なるものとはいえない。

(二) 被告は、本件考案の制御方式は積分制御であるところ、被告物件の制御方式は比例制御であるとして、作用・効果が相違すると主張する。

しかし、被告の右主張は、本件考案と被告物件が構造を異にすることを前提とする主張であるところ、両者の構成要件に相違がないことは前記のとおりであるから、その余を判断するまでもなく、被告の右主張は理由がないこととなる。また、仮に、ウェブの掛け方の相違により、積分制御あるいは比例制御といえるような相違が生じるとしても、単なる使用形態の差によって生ずる右のような相違をもって技術形態の相違ということはできない。

なお、被告は、センタピポット方式によるガイド装置(ローラの下部中央に固定した旋回軸があり、ローラは旋回軸を中心に円運動する。ウェブは通常二つのローラの回転軸でつくられる平面に垂直な方向から供給されて第一ローラ及び第二ローラの上面と接して排出される。ウェブは第一ローラの前後では角度を変えるだけである。)を採用していることにより比例制御方式を有する旨を主張するものとも解される(甲三、八、九、乙一)。しかし、仮に、本件考案が、その構成要件に加え右方式を有することによりその効果をさらに改善する面があるとしても、せいぜい利用考案としての意義を有するにとどまり、被告物件が本件考案の技術的範囲に属するとの前記判断を左右するものではない。

(三) なお、被告は、別件明細書第1図に、本件考案と同じ目的を有するウエブの制御装置において、制御ローラの角度調整機構として、本件考案にいう「連結部材」と同じ逆ハの字型リンク機構が図示されており、この種の制御装置の制御ローラの角度調整機構として、右のような機構を用いることは、本件考案の出願前から公知であるから、本件考案における逆ハの字型リンク機構自体に新規性はなく、ウエブの搬送面と制御ローラの角度調整面等の方向関係等が重要な構成要件となる旨主張する。

確かに、別件明細書第1図には、「後方側端部より外側に位置する前方側端部にローラ支持体を軸支する連結部材」に相当すると思われるものが記載されている。しかし、別件特許発明は「ウエブの両端の耳端位置を検出する方法としては、光源と受光素子とを対置した構造のものが従来多く使用されてきたが、他の光源の影響を受け易く、また、構造上ウエブから大きく離して取付ける事ができない等の欠点を有していた。本発明は上記の欠点を改善し、特に炉内の鋼板の耳端検出等、従来の装置では設置不能であったような所にも応用可能である新規な耳端位置制御装置を提供しようというもの」(別件明細書2行~10行)で、本件考案のように搬送位置の誤差が小さい状態において搬送物の移動量を小さくし、誤差の大きい状態において移動量を大きくすることができ、位置修正の応答性を向上するという目的を有するものではない。そして、別件明細書中の「特許請求の範囲」や「発明の詳細な説明」には、別件特許発明が、右のような構造を有する連結部材を有することや右構造を採用することにより本件考案のような位置修正の作用効果を有することについて、何らの記載がなく、連結棒についての記載も一切ない。

したがって、別件特許発明の存在をもって、本件考案の技術的範囲を限定すべき根拠にはならないというべきである。

二  争点2(被告は、現在、被告物件を製造販売しているか。将来製造販売するおそれがあるか)について

1  被告が現在被告物件を製造販売していることを認めるに足りる証拠はない。原告は、原告代理人らが平成一一年七月二二日被告会社に出向いて平成八年七月五日付製作指図書を閲覧したところ、「特許対策のため」図番の修正が行われていた旨主張するが、工業所有権侵害を認定された場合に備えて設計変更を行うことは一般にありうることであり、右記載が不合理なものとは認められない。

原告は、また、右製作指図書には出図図面に日付がなく、被告物件の最終受注日は平成七年一〇月七日となっているところ(被告もこの点は、特に争わない。)、それ以降、平成八年七月ころまで、被告物件についての受注がないことになるが、これは不自然であり、標準外仕様品については、図面が修正されている点の確認ができなかった旨主張する。しかし、右受注は標準仕様であって、製作図面は製作業者に保管されている標準図面により行われたため、図面番号の指示のみがあり、図面提出日の日付はなかったものである旨の被告の弁解もあながち不自然として排斥することはできないのであって、原告主張にかかる右事実のみから、被告が平成八年四月一日以降も被告物件を製造販売していたことを認めることはできない。

2  もっとも、被告が被告物件が本件考案の技術的範囲に属することを争っていることからすれば、被告が将来被告物件を製造販売するおそれがあることは否定できないから、被告物件の製造販売の予防請求は理由がある。

三  争点3(被告が損害賠償責任を負う場合、原告に賠償すべき損害額。)について

1  実用新案法二九条三項の推定規定による損害について

(一) 証拠(乙三。売上高別売上原価対比表抜粋)によれば、平成五年四月一日から平成八年三月末日までの被告物件の売上高は五〇二九万二九二五円、また、同種の構造を有する「BT九五七三 0―JA」及びその標準仕様品「KL一六二八 0―JA」の売上高は三九七万四〇〇〇円、合計五四二六万六九二五円であることが認められる。乙三は売上高・売上原価対比表(乙四)をもとに作成されたものであるところ、乙四は被告の業務の過程においてコンピュータ処理によって作成されたもので、平成五年に打ち出したものから保存されており、信用性は高く、ひいては乙三の信用性も認められる。

(二) 先にみたとおり、本件考案は、構造としては単純であるが、逆ハの字型リンク機構により相当な効果を奏すること(逆ハの字型リンク機構自体は前記のとおり公知であるとしても、これを右効果を達成する目的をもって本件考案の構成の中に意識的に含めた点は評価に値する。)を考慮すれば、実施料率は四パーセントをもって相当と認める。

そうすると、実施料相当損害は、(一)の四パーセントである二一七万〇六七七円となる。

2  実用新案法二九条二項の推定規定による損害について

(一) 被告物件の粗利益率、製造原価について検討する。

乙三によれば、被告物件(同種の構造を有する「BT九五七三 0―JA」及びその標準仕様品「KL一六二八 0―JA」を含む。)を含む四六オーダーの売上高は、七〇六七万四七二五円、売上原価は五八五一万一一四一円、粗利益は一二一六万三五八四円であって、粗利益率は一七・二一パーセントとなることが認められる(右四六オーダーの中には、被告物件すなわち本件考案の技術的範囲に属する物件以外の搬送ローラのガイド装置も含まれているが、大量生産されるわけでないこの種の物件の利益率を検討する上ではこれらの資料も有益であり、かつ、被告物件以外のオーダーの利益率が被告物件のそれより概ね高いことから、このような処理をしても原告に不利でもない。)。なお、甲一〇は原告による本件考案の実施品の売上高・売上原価を示すものであるが、前記のとおり乙三、四は信用性が高く、甲一〇によって右認定を超えた被告物件の粗利益率を認定することは相当ではない。

ここで、被告は、被告において製品を受注した場合にその都度作成される「製作指図書」に基づき、各オーダーの受注価額から原価の確定しているガイドロール以外の部品(センサー等)の価額を控除するなどすれば右総売上高に占めるガイドロール機構の割合は、六一パーセントとなる旨主張するが、一般的には、考案の実施品の製品全体に対する寄与度、又は利用率を考慮して、全体利益の一部を損害額として推定すべきであるということはできるが、本件考案は「搬送ローラのガイド装置」の考案であって(構成要件A、E)その部品の考案ではなく、本件明細書でも、実施例において、「第3図は上記搬送ローラのガイド装置の制御部のブロック図である。CPU21にはI/Oインターフェイス24を介して位置センサ25の検出データが入力される。位置センサ25は搬送ローラ1、2に達する前の搬送物の端部1を検出する。CPU21はROM22に記憶されたプログラムに従って位置センサ25の検出データが基準位置のデータに一致するようにモータ駆動部26に制御データを出力する。」(本件明細書6欄6行~15行)として位置センサ25が搬送ローラのガイド装置の制御部の構成部分として記載されているところであるから、センサー部分を全体利益から除外する理由はない。

以上によれば、被告物件の製造原価は四四九二万七五八七円となる。

(二) 次に、実用新案法二九条二項にいう「利益」の意義について検討する。

原告は、右利益について限界利益を主張する。しかし、右規定による場合は、権利侵害がなければ権利者が得られたであろう逸失利益の額を直接主張立証するのでなく、侵害品の販売により侵害者が得た利益の額を権利者の受けた損害と推定するものであるから、権利者の側においては初期投資を終了しており、権利の実施品の販売をすることにより販売費、一般管理費が増える状況にないとしても、侵害者の側では、侵害製品を製造販売して利益を得るために販売費、一般管理費などを現実に支出することからすると、これを控除しないとするのは妥当でない。なお、限界利益を右規定による「利益」であるとすることは、同規定に通常の損害賠償の概念を越えて制裁的意味を持たせることになるところ、原告は、侵害抑止の観点からある程度の事実上の制裁機能を加味しても背理ではない旨主張する。しかし、同規定が、過失があるに過ぎない侵害者についても適用されることを考慮するとその妥当性にはなお疑問がある。よって、右規定にいう「利益」は、特段の事情がない限り純利益を指すと解するべきである。

(三) 被告が、被告物件の製造販売により得た純利益について検討する。

右期間における被告物件の売上高は前記(一)により五四二六万六九二五円であり、製造原価は前記(二)により四四九二万七五八七円である。

他方、同期間の被告の事業報告書(乙五の1ないし3)によると、その間の被告の売上合計は二二一億三一九六万六〇〇〇円であるのに対し、販売費及び一般管理費の合計は五五億四一三二万四〇〇〇円である(二五パーセント)。

これを、被告物件の売上高に乗ずると、被告物件を売上げるための販売費及び一般管理費は一三五六万六七三一円となり、被告物件の前記売上高から前記製造原価、一般管理費を差し引くと、純利益はマイナス四二二万七三九三円となる。

四  結論

よって、原告の請求は主文の限度で理由がある。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 本吉弘行 裁判官 鈴木紀子)

物件目録一

被告製品(一)の図面及び説明書

一 図面の説明

第1図は平面図、第2図は正面図、第3図は右側面図、第4図は斜視図である。図面中の各符号は次の部分を示す。

11、12 ローラ

13 ローラ支持体

14 連結部材

17 連結棒

18 電動アクチュエータ

二 被告製品(一)の構造

A.平行に配置された二本のローラ(11)、(12)をその両端部でローラ支持体(13)により軸回りに回転可能に支持し、このローラ支持体(13)の移動によりウェブの搬送方向を変えるガイドロール機構である。

B.2つの連結部材(14)、(14)が、一方の端部を支点としてローラ(11)及び(12)の両回転軸によって作られる平面に平行な面に対して回転自在に支持されるとともに、前記一方の端部より外側に位置する他方の端部にローラ支持体(13)を回転可能に支持している。

C.連結棒(17)が、ローラ(11)、(12)の両端部に位置するローラ支持体(13)を連結している。

D.2つの連結部材(14)、(14)を同方向に回転させるために、連結棒(17)に対してローラ(11)、(12)間のウェブ走行方向に垂直に力を作用させる駆動源としての電動アクチュエータ(18)を有する。

被告製品(一)の図面 No.1

第1図

第2図

第3図

〈省略〉

被告製品(一)の図面 No.2

第4図

〈省略〉

物件目録二

被告製品(二)の図面及び説明書

一 図面の説明

第1図は平面図、第2図は正面図、第3図は右側面図である。図面中の各符号は次の部分を示す。

11、12 ローラ

13 ローラ支持体

14 連結部材

17 連絡棒

18 電動アクチュエータ

二 被告製品(二)の構造

A.平行に配置された二本のローラ(11)、(12)をその両端部でローラ支持体(13)により軸回りに回転可能に支持し、このローラ支持体(13)の移動によりウェブの搬送方向を変えるガイドロール機構である。

B.2つの連結部材(14)、(14)が、一方の端部を支点としてローラ(11)及び(12)の両回転軸によって作られる平面に平行な面に対して回転自在に支持されるとともに、前記一方の端部より外側に位置する他方の端部にローラ支持体(13)を回転可能に支持している。

C.連結棒(17)が、ローラ(11)、(12)の両端部に位置するローラ支持体(13)を連結している。

D.2つの連結部材(14)、(14)を同方向に回転させるために、連結棒(17)に対してローラ(11)、(12)間のウェブ走行方向に垂直に力を作用させる駆動源としての電動アクチュエータ(18)を有する。

被告製品(二)の図面

第1図

第2図

第3図

〈省略〉

甲第二号証

日本国特許庁(JP) 実用新案出願公告

実用新案公報(Y2) 平4―27891

Int.Cl.5  識別記号 庁内整理番号 公告 平成4年(1992)7月6日

B65H 23/038 7018―3F

(全7頁)

考案の名称 搬送ローラのガイド装置

実願 昭61―147159 公開 昭63―52855

出願 昭61(1986)9月25日 昭63(1988)4月9日

考案者 草野 幸雄 京都府久世郡久御山町中島池ノ上43番地の2 有限会社エム・イー開発技研内

出願人 有限会社 エム・イー開発技研 京都府久世郡久御山町中島池ノ上43番地の2

代理人 弁理士 小森 久夫

審査官 塩澤 克利

参考文献 特開 昭55―66444(JP、A) 特開 昭58―89551(JP、A)

特開 昭53―6785(JP、A) 特開 昭52―120942(JP、A)

実開 昭53―20055(JP、U)

実用新案登録請求の範囲

搬送ローラをその両端部で各個別のローラ支持体により軸支し、このローラ支持体の移動により搬送方向を変える搬送ローラのガイド装置において、

搬送方向の後方側端部を支点として搬送面に水平な面に対して回転自在に支持されるとともに、後方側端部より外側に位置する前方側端部にローラ支持体を軸支する連結部材と、

搬送ローラの両端部に位置するローラ支持体を連結する連結棒と、

前記連結棒に搬送方向に垂直な方向に力を作用させて搬送ローラの2つの連結部材に同方向の回転力を供給する連結部材回転手段と、

を備えてなる搬送ローラのガイド装置。

考案の詳細な説明

(a) 産業上の利用分野

この考案は、布やフイルムなどのウエブの製造および加工作業において、これらウエブを搬送する搬送ローラに関し、特にウエブの搬送方向に垂直な方向の位置を矯正する搬送ローラのガイド装置に関する。

(b) 従来の技術

ウエブの製造および加工精度を向上するためにはその搬送方向に垂直な方向の位置を適正な状態に維持しなければならない。ところが、ウエブは搬送装置において搬送方向に垂直な方向に移動しやすく位置ずれを生じやすい。このため、ウエブを搬送する際、従来より第6図に示すような搬送ローラが用いられている。これは、矢印A方向の搬送方向の前後に一対のローラ61、62を備え、この搬送ローラ61、62の両端部をローラ支持体63a、63bにより軸支する。このローラ支持体63a、63bはそれぞれ移動体64、65に軸支されている。ローラ支持体63aを軸支する移動体64は回転ネジ66に螺合するとともにガイド67、68に摺動目在にされている。回転ネジ66には図外のプーリおよびベルトによつてモータ69の回転力が伝達される。一方、ローラ支持体63bを軸支した移動体65は、ガイド70~72に摺動自在にされている。

正逆両方向に回転可能にされたモータ69が何れか一方に回転すると回転ネジ66も回し、移動体64が矢印B方向に移動する。これにともなつて移動体65は矢印C方向に移動し、ローラ支持体63a、63bは移動体64、65において回転しながら図中二点鎖線で示す状態に移動する。このようにしてローラ61、62は矢印D方向に回転しつつ矢印E方向に移動する。以上のようにローラ61、62の両端部においてローラ支持体63a、63bが直線移動することによつて、第7図Bに示すようにウエブ81が矢印E方向に位置ずれを生じた場合にはローラ61、62は矢印F方向に回転しつつ矢印G方向に移動し、搬送位置を同図Aに示す所定の位置に矯正する。また、同図Cに示すようにウエブ81が矢印G方向に位置ずれを生じた場合には搬送ローラ61、62は矢印D方向に回転しつつ矢印Ε方向に移動しウエブ81の搬送位置を矯正する。

(c) 考案が解決しようとする問題点

搬送物の搬送方向に垂直な方向の位置を搬送ローラの移動により変化させる場合、搬送ローラを搬送方向に垂直に移動させる方法と、搬送方向に対して傾斜させる方法がある。搬送方向に垂直に移動させる場合には、その移動量だけ搬送物の位置を変化させることができる。一方、搬送ローラを傾斜させると搬送物の位置は傾斜している間において継続して累積的に変化する。以上のことから基準位置からの誤差が小さい範囲では搬送ローラを搬送方向に垂直な方向に移動して搬送物を必要量だけ移動し、搬送物の位置に大きな誤差を生じた場合には搬送ローラを傾斜させて位置を連続的に変化させることが望ましい。

ところが、上記従来の搬送ローラのガイド装置ではローラ支持体が直線的に移動するため、ローラの中心位置の軌跡は第8図に示すようになる。したがつて、移動体64を搬送ローラの水平状態81から矢印B方向に移動させた場合には搬送ローラの傾斜量は徐々に小さくなり、反対に移動体64を水平状態81から矢印B'方向に移動させると搬送ローラの傾斜量は徐々に大きくなる。このように移動体64を移動させる方向によつて搬送ローラに与えられる傾斜角が異なり、特に搬送物の搬送位置を矢印E方向に移動させる場合には、単位時間当たりの搬送ローラの傾斜角の変化は徐々に小さくなる。

このため、搬送位置の誤差が小さい状態で搬送物の移動量が大きくなり、反対に誤差の大きい状態で移動量が小さくなつてしまうため、誤差の小さい状態で移動方向が交互に反転するハンチングが生したり、誤差の大きい状態で適正は修正効果が得られない問題があつた。

また、第6図に示すように搬送ローラの両側に回転ネジおよびガイドの一部が突出し、搬送物の幅に比べて装置が大型化する欠点があつた。

この考案の目的は、搬送位置の誤差が小さい状態において搬送物の移動量を小さくし、誤差の大きい状態において移動量を大きくすることができ、位置修正の応答性を向上するとともにハンチングを防止し、かつ修正効果を向上し、さらに装置を小型化できる搬送ローラのガイド装置を提供することにある。

(d) 問題点を解決するための手段

この考案の搬送ローラのガイド装置は、搬送ローラをその両端部で各個別のローラ支持体により軸支し、このローラ支持体の移動により搬送方向を変える搬送ローラのガイド装置において、

搬送方向の後方側端部を支点として搬送面に水平な面に対し回転自在に支持されるとともに後方側端部より外側に位置する前方側端部にローラ支持体を軸支する連結部材と、

搬送ローラの両端部に位置するローラ支持体を連結する連結棒と、

前記連結棒に搬送方向に垂直な方向に力を作用させて両端部の連結部材同方向の回転力を供給する連結部材回転手段と、

を備えたことを特徴とする。

(e) 作用

この考案においては、

搬送ローラの両端部を軸支するローラ支持体は連結部材の搬送方向の前方側端部に軸支される。この連結部材の搬送方向の後方側端部は搬送面に水平な面に対し回転自在にされている。また、両端部のローラ支持体は連結棒により連結されている。したがつて、両端部の連結部材とその間の連結棒とにより、4つの回転対偶をもつ平面3節のリンク機構が構成される。このリンク機構において連結棒において連結される2本の連結部材の前方側端部の間隔は、その後方側端部の間隔より広い。このようにして搬送ローラ両端部に設けられた2つの連結部材のそれぞれに同方向の回転力が連結部材回転手段により連結棒を介して伝達される。連結部材の前方側端部は後方側端部よりも外側に位置しているため、連結部材回転手段により回転力が伝達されると、左右の連結部材の前方側端部の回転に位相差が生じる。すなわち、回転方向側の連結部材の前方側端部は回転とともに搬送方向の移動量が徐々に増加していく。このとき他方の連結部材の前方側端部は搬送方向に垂直な方向の移動が支配的である。以上のことから、連結部材の回転初期には搬送ローラは主に搬送方向に垂直な方向に移動し、連結部材の回転に伴つて搬送方向に対する傾斜量を増していく。

(f) 実施例

第1図は、この考案の搬送ローラのガイド装置を示す外観斜視図である。

二本の搬送ローラ1、2は両端部においてローラ支持体3により軸支されている。このローラ支持体3は連結部材4の前方側端部4aに軸支されており、連結部材4はその後方側端部4bにおいてピン5により軸支されている。このピン5はフレーム6に固定されている。搬送ローラ1、2の下方には後述する連結部材回転手段8が備えられている。搬送ローラ1、2の両端部に位置するローラ支持体3のそれぞれは連結棒7により互いに連結されており、連結棒7の中央部は連結部材回転手段8に軸支されている。

第2図AおよびBは、上記搬送ローラのガイド装置の一部を構成する連結部材回転手段の平面図および背面断面図である。

フレーム6の上面に固定された連結部材回転手段8は、モータ31の回転を連結棒7の直線移動に変換する。固定フレーム39、40にはベアリング41、42を介して回転ネジ33が軸支されている。また固定フレーム39、40にはガイド36、37の両端部が固定されている。回転ネジ33の軸部33aにはプーリ34が固定されている。また、モータ31の回転軸31aにはプーリ32が固定されている。ものプーリ32、34の両者にベルト35が張架され、モータ31の回転力が回転ネジ33に伝達される。

回転ネジ33には移動体43が螺合している。また、移動体43はガイド36、37に摺動自在にされている。この移動体43の上側にはレール38が設けられている。このレール38内を移動子44が回転可能かつ搬送方向に移動可能にされている。この移動子44は連絡部材45により連結棒7に固定されている。

したがつて、連結棒7は連絡部材45を介して移動子44により軸支されていて、移動子44がレール38内を搬送方向に移動可能にされていることから、連結棒7にはその角度変化に係わらず、移動体43の移動により常に搬送方向に垂直な方向に力が作用する。 第3図は上記搬送ローラのガイド装置の制御部のブロツク図である。

CPU21にはI/Oインターフエイス24を介して位置センサ25の検出データが入力される。位置センサ25は搬送ローラ1、2に達する前の搬送物の端部1を検出する。CPU21はROM22に記憶されたプログラムに従つて位置センサ25の検出データが基準位置のデータに一致するようにモータ駆動部26に制御データを出力する。モータ駆動部26は制御データに従つてモータ31を駆動する。

第4図A~Cは、上記搬送ローラのガイド装置の動作を示す平面図である。

モータ31が回転すると回転ネジ33も回転し、移動体43が第2図Aに示す矢印LまたはM方向の搬送方向に垂直な方向に移動する。この搬送方向に垂直な方向の移動はレール38と移動子44との接触により連結棒7を介してローラ支持体3に伝達される。今、移動体43が第2図Aに示す矢印L方向に移動すると搬送ローラ1、2は第4図Aに示す状態から同図Bに示す状態に矢印E方向に移動しつつ矢印D方向に回転する。モータ31の回転が継続され移動体43がさらに矢印L方向に移動すると、搬送ローラ1、2は第4図Bに示す状態からさらに矢印E方向に移動するとともに矢印D方向に回転し、同図Cに示す状態を経て移動していく。

このときの連結棒7の単位時間毎の状態の変化を表すと第5図のようになる。同図に示すように、搬送ローラ1、2と平行な連結棒7は移動体43とともに等速度で矢印L方向に移動する。また、連結棒7の中点は位置P1→P2→……→P6と移動してく。このとき、搬送ローラ1、2の両側に位置する連結部材4の位相差によつて、位置P1と位置P2の間の回転初期では連結棒7の水平位置からの傾斜は僅かであり、このことは換言すると回転初期の状態では搬送方向に垂直な方向の移動が支配的であると言える。連結部材4の回転が進展していくに従い単位時間当たりの角度変化が増加していく。以上のことは連結部材4の矢印F方向の回転についても同様であり、このときの連結棒7の軌跡は第5図に示す図形に対して対称図形となる。

以上のようにこの実施例によればモータ31の回転を回転ネジ33および移動体43の螺合により直線運動に変換し、この直線運動をレール38および移動子44を介して連結棒7に伝達する。連結棒7は連結部材4の前方側端部4aに軸支されたローラ支持体3に固定されており、連結棒7の動作は連結部材4の回転力として伝達される。このとき、ローラ1、2の両側の連結部材には位相差が設けられており、連結棒7および搬送ローラ1、2の単位時間当たりの傾斜量は連結部材4の回転動作にともなつて徐々に増加していく。このため、回転初期状態では単位時間当たりの傾斜量は軽微であり、搬送方向に垂直な方向の移動が支配的になる。連結部材4の回転が進展すると単位時間当たりの傾斜量が増加していく。

(g) 考案の効果

この考案によれば、搬送ローラを連結部材の回転動作によつて移動し、搬送物の搬送位置を変化させる。このとき、連結部材の回転動作の進捗状態に応じて搬送ローラの傾斜角の変化量を変えることができる。したがつて、搬送位置の誤差が軽微な状態では搬送ローラを搬送方向に垂直な方向に直線的に移動させ、誤差が大きくなつたとき搬送ローラを傾斜させて搬送物を大きく移動させることができる。このため、搬送物の搬送位置の誤差が小さい状態では搬送物を微妙に移動させることができ、しかもその移動にハンチングを伴うことがない。一方、搬送物の搬送位置の誤差が大きくなると搬送物を大きく移動し、修正を素早く行うことができる。

さらに、両連結部材に回転力を伝達する連結部材回転手段は両連結部材の間すなわち、搬送ローラの幅によつて規定される搬送路の範囲に設けられるため、装置が搬送ローラの外側に大きく張り出すことがなく、装置の小型化を実現することができる。

図面の簡単な説明

第1図はこの考案の実施例である搬送ローラのガイド装置の外観斜視図、第2図AおよびBは同搬送ローラのガイド装置の一部を構成する連結部材回転手段を示すそれぞれ平面図および背面断面図、第3図は同搬送ローラのガイド装置の制御部のブロツク図、第4図A~Cは同搬送ローラのガイド装置の動作を示す平面図、第5図は同搬送ローラのガイド装置の動作を示す模式図である。また、第6図は従来の搬送ローラのガイド装置を示す平面図、第7図A~Cは同従来の搬送ローラのガイド装置の動作を示す平面図、第8図は同従来の搬送ローラのガイド装置の動作を示す模式図である。

1、2……搬送ローラ、3……ローラ支持体、4……連結部材、8……連結部材回転手段。

第3図

第1図

第5図

第4図

(A)

(B)

(C)

第2図

(A)

(B)

第8図

第6図

第7図

(A)

(B)

(C)

〈省略〉

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別紙1

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